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  • 2021.03.02 (最終更新日:2022.04.06)

産業医とは?役割や具体的な仕事内容を解説。医師との違いも理解しよう

目次

産業医とは?その役割や通常の医師との違い

産業医

産業医はどんな役割を持つのか

産業医とは労働者の健康を保持するために、専門的なポジションで労働者の健康管理をする医師のことです。産業医は医学に関する知識だけではなく、労働者の健康管理を行うために必要な知識を学ぶことが必須。医師免許を持っていて、なおかつ厚生労働省令で定められた条件を満たしています。その条件を解説すると、以下の通りです。
  1. 労働者の健康管理をするために必要な医学に関する知識を学び終えた人。
  2. 産業医科大学やその他の大学において、該当する過程を学んで卒業し、実習をした人
  3. 保健衛生の区分の労働衛生コンサルタント試験に受かった人
  4. 大学(学校教育法による)にて労働衛生の科目を担当する教授や準教授、講師をしていた人。もしくは、過去にしていた人
  5. 厚生労働大臣が定める人
1番と2番は、厚生労働大臣が指定するものに限ります。

会社の成長によって事業場の労働者数が50人以上になると、2週間以内に産業医を配置することが法律で決められているのです。労働者の人数を聞くと、正社員だけのように感じる人も多いのではないでしょうか?労働者数50人の中に、非正規雇用の従業員も含みます。近年、事業者には労働者の安全に配慮する義務があると考えられているため、非正規雇用でも従業員として数えるようになっているのです。

産業医と通常の医師はどこが違うのか

産業医と通常の医師の大きな違いは、診断・治療を行うかどうかということです。通常の医師は診断・治療を行いますが、産業医は行いません。では何をするのかというと、労働者が働けるかどうかを判断するのです。患者に復職を希望されても、医師には患者がいる職場の環境まで分かりません。そのため細心の注意を払ったうえで、復職可能だと判断することがあります。これに対して産業医は、医師には分からない「会社が求める仕事ぶりを発揮できるのか?」ということを見極められるのです。また、通常の医師の対象者は病人なのに対して、産業医は健康な人も対象者になります。両者のそのほかの違いを、以下にまとめました。

産業医・・会社で働き、事業主と業務契約する。労働者の安全に問題があるときや、法令違反をしているときに会社側に対する勧告権がある。健康に関するアドバイスや指導を行う。
通常の医師・・病院等医療施設で働き、患者と治療契約をする。会社側に関する勧告権はなし。病気の検査をし、治療する。

専属産業医と嘱託産業医はどこが違うのか

産業医をさらに細かく分けると、専属と嘱託があります。両者は、どこに違いがあるのでしょうか?両者の違いは勤務形態です。専属が社員として企業に所属しているのに対して、嘱託は非常勤で働いています。普段は通常の医師として働く人が、副業のような立ち位置でそれぞれの会社と契約している例もあるのです。

よく似ている健康経営アドバイザーとの違いは?

健康経営についてあまり知らなくて、産業医と健康経営アドバイザーの違いが分からない人もいます。健康経営アドバイザーは「東京商工会議所」が認定している資格で、健康経営の必要性を伝えたり実施するきっかけを作ったりするのが仕事です。この資格は2016年に、経済産業省からの依頼によって設立しました。産業医と健康経営アドバイザーには、仕事で行える範囲の違いがあるのです。
健康経営アドバイザーについては、以下のコラムでも紹介しています。合わせてご覧ください。

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今、各企業で必要とされている健康経営アドバイザー

産業医の具体的な仕事内容について①

産業医 診察や治療を行わない産業医の仕事内容はどのようなものなのでしょうか?医師とは異なると言われても、想像がつかない人も多いことと思います。ここでは、産業医の仕事内容を具体的に見ていきましょう。

衛生委員会で意見を述べること

労働者数が50人を超える会社には産業医の配置の他、衛生委員会の設置が必須です。特定の業種、たとえば水道業やガス業などでは安全委員会の設置も義務付けられています。産業医は衛生委員会や安全委員会のメンバーとして、事業場に対して意見が言えるのです。両方の委員会に産業医が必ず出席しなくてはいけないわけではありませんが、メンバーとして出席するのが理想。近年はリモートで委員会を開催する会社が増加していますが、必ず会議の記録を残して保管し、産業医が内容を確認できるようにする必要があります。

職場環境の確認を行うこと

産業医には会社の見回りをして、職場環境の確認をする仕事があります。このことは「職場巡視」と呼ばれており、確認する項目があるのです。会社の見回りをして問題が見つかった場合、衛生委員会などに報告して対策を練ります。以下が、産業医が職場巡視で確認する項目の一部です。
  • 整理整頓ができているか。きちんと清掃していて、清潔に保っているかどうか。お手洗いの衛生環境はどうか
  • 職場の温度設定について。冷暖房が完備されていて、温度計を設置しているか
  • 職場の明るさの具合はどれぐらいか。具体的には、明るさの程度を表す単位でどれぐらいにするべきか決まっている
  • 消火器やAEDはどこに設置しているか
  • 休憩室の環境の確認。衛生管理はできているかどうか。

産業医は労働者の安全や健康を守るため、労働環境の確認を行っているのです。

健康診断の結果を確認すること

産業医は健康診断をした結果、心身に不調があると判断した労働者が働けるかどうか判断します。これを就業判定といい、休むことが必要な労働者がいれば意見書を作るのです。また、これまでは会社が労働基準監督署に提出しなくてはいけない「健康診断結果報告書」に押印していました。ところが2020年8月に電子化の増進が目的で法令が改正され、産業医の押印が必要なくなる書類が出てきています。

衛生講話を行うこと

産業医は健康や衛生の管理を目的として、会社や安全衛生委員会にて研修をします。この衛生講和は会社の希望に対応して行われるものなので、開催方法や開催頻度が細かく決まっているわけではありません。自主的な希望に沿って行われるものです。衛生講和でどのような内容を話すかについては、後の項目で詳しく説明します。

産業医の具体的な仕事内容についてその②

労働者からの健康相談に応じること

労働者から健康関係の相談をしたいと言われたとき、相談に応じるのも産業医の仕事です。長時間労働をしている労働者やストレスを多く受けている労働者に対して、面談を行う場合もありますよ。職場環境や産業医ごとに、面談に至るまでの過程はさまざまです。労働者が面談しやすい環境を整えることにより、健康リスクの回避を図ります。

ストレスチェックを実施すること

ストレスチェックの計画から実施・終了までの過程に関わって管理することも、産業医の仕事の1つ。専門的な見解でアドバイスを行います。

体調面や労働環境に問題のある労働者へ面談を行うこと

ストレスチェックを行い、多くのストレスを受けていると判断した労働者に対して面談を行います。働き方や休業に関するアドバイスを行うのです。また、長時間労働をして疲れが溜まっている労働者から希望があれば、長時間労働者面接指導を行います。労働時間の条件によっては、希望がなくても労働者の健康を保持するために面接指導をするのです。このことは、メンタルヘルス不調の対策となったり、適切な措置に繋がることになったります。

産業医が関わる衛生委員会って何?

産業医 産業医が仕事で関わる衛生委員会には、どのような役割があるのでしょうか?

労働者と事業者が一体となり、労働災害の防止に努めるのが衛生委員会の目的です。今までは専門的なアドバイスを受けずに、会社が一方的な措置を行ってきた例が多くありました。会社側が労働者のためになると考えて行った措置でも、思い通りの役目をはたしていないことも多かったのです。工事現場などでは労働者のことを考えた措置がなされていなかったので、たびたび労働災害や健康被害に悩まされていました。

そのような事例が増えたため、労働者は現状を報告することと、事業者側は労働者の健康や安全を守る意識を高めることが重要視されたのです。衛生委員会は事業者と労働者の仲介となり、健康や安全に関する労働者側の意見を企業に対応させるためにあります。労働者と事業者の間で意見を交換し合ったり安全に関する取り組みが不十分だったりすることによって、死亡事故に繋がる可能性もあるのです。

衛生委員会は労働者と事業者の間を取り持って、労働災害の防止に努めます。具体的な話し合いの内容は、これまでにどのような労働災害が発生したかであったり職場に潜む危険な場所や問題点であったりさまざまです。そのほかには、ストレスチェックの実施体制や情報の取り扱いについてなどを細かく審議します。お伝えした通り産業医は事業者側のメンバーとして、専門家の立場から衛生委員会に意見を述べるのです。

衛生講和とは?どんな内容が話されるのか

産業医 産業医による衛生講和では、どんな内容が話されるのでしょうか。衛生講和の大切さと共に見ていきましょう。

衛生講和の大切さとは

仕事と切っても切れない関係なのが、ストレスです。働いているとどうしても発生するものですよね。問題を抱え込みやすい真面目な傾向のある日本人は、ストレスにさらされやすいです。平日は仕事のことばかり考えているため、疲れが溜まっていつまでも寝るような休日を過ごす人や、さまざまな不安があるので仕事のことを考えながら休日を過ごす人もいます。長年そのようなことを続けていると、異常な生活習慣があったとしてもそれが当たり前となり、気づきません。産業医と面談をしていない労働者の中にも、ストレスの視点から日常生活を変える必要がある人も多いことと思います。

そこで、衛生講和が大事なのです。衛生講和が日常生活の異常な部分に気づくきっかけに繋がります。産業医の話を聞くことによって、日常生活のどこか悪くてどう変えればいいのか考えるきっかけになるのですね。

内容①喫煙や飲酒について

労働者の中には仕事で受けるストレスを喫煙や飲酒によって、晴らしている人も多いです。しかしそれでは、ストレスの根本的な解決になりません。根本的な解決にならないどころか、さらに健康被害を増やしてしまう可能性が高まります。産業医から、喫煙や飲酒は身体に悪影響を及ぼすものだと具体的な説明を受ければ、心境はどう変化するでしょうか?「量を減らしてみようか。」と思ったり「止めてみようか。」と思ったりする人も多いことと思います。そのような人が増えることによって、いずれは健康状態の良い労働者が増えることに繋がるのです。

内容②ストレスについて

「ストレス社会」と呼ばれるほど、現代のストレスは問題になっています。ストレスは変化に対して発生しやすいので、部署の異動なども原因になるのです。ストレスを抱える労働者が1人いるとほかの労働者にまで広がりますので、周りに伝染する可能性もあります。ストレスを題材にした話を聞くことによって、相談のきっかけになるのです。

内容③食習慣について

健康的な生活を送るうえで食習慣に気を配ることはとても大事です。ところが慌ただしい毎日を送っていると、帰宅時間が遅くなるので食習慣について気を配ることがルーズになりがち。そのことが体調不良に繋がり、普段の仕事ぶりが発揮できなくなってしまいます。産業医から食習慣を題材にした話を聞けば、改めて気を配ることの大切さに気づくのです。

内容④睡眠習慣について

日常生活を送るうえで必須なのが、睡眠です。質の高い睡眠を摂れば、スッキリと朝に目覚められますし仕事の効率も上がります。しかし不安やストレスが多ければ、睡眠前に仕事のことをだらだらと考えたりなかなか寝付けなかったりしてしまうのです。産業医から睡眠について詳しく知ることによって、質の高い睡眠を摂るための努力の方向性が分かるようになることと思います。

産業医について理解を深めるために

オフィス 笑顔 産業医について理解を深めるために、健康経営について知ることをおすすめします。健康経営では不健康な労働者が増えれば会社の損失に繋がると考えて、会社が労働者の健康問題へ積極的に取り組むのです。労働者の健康問題の改善に取り組み、仕事の効率を上げたり離職率の低下を図ったりするので、会社側にもメリットがあります。その健康経営の一環として、産業医を活用する会社もあるのです。

労働者は産業医によって健康管理をしてもらえるので、会社に対して信頼感を持つきっかけになるのではないでしょうか。日々勉強に取り組んで労働者に寄り添った対応が可能な産業医が会社にいれば、労働者が健康問題について相談しやすい雰囲気になるのです。
当コラムでは、健康経営について情報発信をしております。仕事と健康の問題は1つではありませんので、視野を広げて多方面から取り組む必要があるのです。このコラムでは産業医の視点から健康経営を紹介いたしましたが、働き方改革や女性の働き方など、さまざまな視点のコラムがありますよ。

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まとめ

産業医の役割や仕事内容を紹介いたしました。「仕事での体調不良は個人の問題だ」と言われてきた時代と、現代は違います。会社が労働者の健康問題の改善に取り組むようになったのです。産業医と通常の医師とでは、勤務場所や仕事内容など根本的に違うところがたくさんありましたね。治療をしないかわりに、病院で働く医師よりも労働者の気持ちに寄り添って、健康に関するアドバイスができるのです。産業医は労働環境を改善していくための架け橋となるでしょう。
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