• 健康経営
  • 2021.05.18 (最終更新日:2022.03.26)

健康経営はまず健康宣言から!社長の本気を社内外に示そう。

目次

1.健康経営が経営者の「健康宣言」から始まるのはなぜか。

健康経営 推進 健康経営は経営者の「健康宣言」から始まります。それはなぜでしょうか。
健康経営は「従業員の健康増進こそが会社の成長をもたらす」という考え方ですので、従業員の健康増進への投資は企業の経営戦略の一環です。経営者が主導して確実に推進しなければなりません。
その覚悟を経営者が「健康宣言」として社内外に発信することを求めているからなのです。

健康経営は、厚生労働省でなく、経済産業省が所管しています。
従業員の健康増進・活力向上は、福利厚生や安全衛生に留まる問題ではなく、会社の成長のエンジンになり、企業の業績向上・価値向上につながる経営戦略の一環だからです。
経済産業省の健康経営についての定義は次の通りです。
「『健康経営』とは、従業員等の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践することです。企業理念に基づき、従業員等への健康投資を行うことは、従業員の活力向上や生産性の向上等の組織の活性化をもたらし、結果的に業績向上や株価向上につながると期待されます。」
(参考)経済産業省健康経営の推進

なお、健康経営は、日本再興戦略、未来投資戦略に位置づけられた「国民の健康寿命の延伸」に関する取り組みの一つであり、国家的な戦略の一つと位置付けられています。
 

2.健康宣言の事前準備は会社の現状の課題の把握から

健康企業宣言1 健康宣言は、経営者が現在の社内の健康課題を把握し、どう対応していくかを宣言するものです。
現状の課題の把握には医療保険者(協会けんぽ、健康保険組合等)と連携することが効果的です。全国の協会けんぽや健康保険組合等で「健康宣言事業」を推進されています。これに参加してみましょう。
以下では、協会けんぽ東京支部の対応の仕組みを例にとってご説明します。

協会けんぽ東京支部では「健康企業宣言チェックシート」を用意されています。
一つ一つの健康課題について、自社の対応状況が簡単にチェックできます。これらの課題へのアドバイスや協会けんぽから得られるサポートまで整理されています。
これでチェックし、点数の低い項目を健康宣言の取組み項目とすることをおすすめします。
なお「健康診断を100%受診する」というのは必須項目とされています。
問題がある人を早期発見し、治療することは、従業員の健康にとって必須のことだからです。
(注)健康保険組合等では、健康企業宣言応募にあたって、下記の全項目を必須としているところもあります。ご所属の健康保険組合にお確かめください。
 

健康企業宣言2
(出典)協会けんぽ東京支部「健康企業宣言®STEP1

3.健康宣言で取組む項目を決めて健康企業宣言に応募しましょう。

健康企業宣言 健康宣言で取り組む項目が決まったら、健康企業宣言応募用紙で応募します。
「健診を100%受診します。」という必須項目のほか、自社にふさわしい項目を選択して応募します。
(協会けんぽ東京支部の健康企業宣言応募用紙です。
健康企業宣言」募集中!にて応募用紙へのリンクが設けられています。⇒応募用紙
 

ここでは、それぞれの項目について、健康宣言後の実際の活動も視野に入れて、もう少し細かく見ておきます。
一つ一つはそれほど難しいものではない、と思われるかもしれません。
大切なことは経営者が本気で取り組むことです。経営者が決断して対応すべきことも多々あります。その点をしっかり認識してください。

①健診結果を活用します

健診結果において再検査、精密検査、要治療(以下「再検査等」)などと診断された人に受診を勧める、特定保健指導(いわゆるメタボ指導)が必要な人に保健指導を受けさせる、などです。
はじめの健康診断だけ受診していても、その後の再検査等の状況をフォローできていない会社は意外に多いようです。再検査等の受診を勧める、そのための時間を労働時間と扱う、必要な費用について会社が負担する、等の対策も検討しましょう。これは経営者でなければ対応できないことです。

②健康づくり環境を整えます

「健康づくり環境を整える」というのは具体的には次のようなことです。経営者の鶴の一声が有効なものも少なくないとご理解いただけるでしょう。

  • 各事業場などで健康づくり担当者を決めて健康づくりの連絡調整に当たってもらう。なお、この担当者に協会けんぽの「健康保険委員(健康保険サポーター)」になってもらうと、協会けんぽから健康保険の最新情報が送られ、また研修会等にも参加できます。
  • 職場で健康についてのミーティングを実施しご自身の健康法などを発表してもらう。協会けんぽからも参考のリーフレット等の提供を受けることができます。
  • 体重計や血圧計などの健康増進器具を設置して利用を促す。新型コロナ感染症対策としてアルコール消毒液等の設置などの対応をされている会社も多いでしょう。これも健康経営の一環といえます。
  • 採光、換気、観葉植物など、快適さを感ずるような環境を整えます。レイアウトの工夫で、周囲の人との適切な距離感が保てるようにする、といったことも有効な対策です。
  • 長時間連続して座り詰めにならないような工夫をしてみましょう。立ち会議室を設置する、自然に歩数が増えるようにプリンタ等の設置場所を工夫する、ちょっとしたストレッチができる場所を用意する、等の細かな工夫は、すぐできるでしょう。ダーツなどの簡単な遊び道具も備えるのも1つの方法です。
  • 健康づくりに関する研修を年1回定期的に実施する。講師については、協会けんぽ、産業医にお願いしたり、50人未満の企業なら地域産業保健センター(ちさんぽ)に相談してみることをおすすめします。
     

③「食」に取り組みます

仕事中の飲み物に気をつける、例えば、職場の自動販売機の中身を甘いジュース類からお茶に切り替える、社員食堂がある会社ならメニューの改善に取組むなどです。これらの取り組みは、経営者の一声でスピーディーな対応につながるでしょう。
また、健康な食生活のリーフレットを従業員に配布してご家族の協力も得て健康な食生活を推進するということも効果的でしょう。

(参考)農林水産省「食事バランスガイド
1日に、「何を」、「どれだけ」食べたらよいかを考える際の参考にしていただけるよう、食事の望ましい組み合わせとおおよその量をイラストでわかりやすく示したものです。
 

食事バランスガイド

 

④「運動」に取り組みます

社内でラジオ体操を皆で実施することや、階段の利用を励行するなどです。通勤時に一駅手前で降りて歩くことを奨励する、といったことも取り組みやすいでしょう。
協会けんぽでは、オフィスエクササイズのDVD の貸し出しもしてくれます。これらも活用しましょう。

⑤「禁煙」に取り組みます

たばこの煙は発がん性物質などを多く含んでいます。それも、喫煙者の吸い込む主流煙よりも、周りの人にもまき散らする副流煙に多く含まれており、受動喫煙は深刻な問題になっています。脳卒中、肺がん、乳がん、慢性呼吸器症状など様々な病気との因果関係も明らかになっています。
ところが、例えば、ベテラン管理職などがヘビースモーカーで、周りの人はとても注意できない、という職場も少なくないようです。いまだに、たばこの害について理解していない人すら見受けられます。
経営者が率先してたばこの害について周知徹底を図り、受動喫煙防止対策に取り組む必要があります。
経営者は、厚生労働省の「職場における受動喫煙防止のためのガイドライン」をぜひ一読してください。受動喫煙防止対策の徹底は、健康増進法や労働安全衛生法等で定められた経営者の義務です。全社的な禁煙徹底、あるいは喫煙室の設置等の対策も、経営者の決断が迅速な対応につながるでしょう。
(参考)厚生労働省ポータルサイト
職場における受動喫煙防止対策について

⑥「心の健康」に取り組みます

心の健康は近時大変重要な問題になっています。仕事や職業生活に関して強い不安、悩み又はストレスを感じている労働者は5割を超えるといわれており、常時50人以上の労働者を使用する事業場ではストレスチェック制度も義務付けられています。 とりわけ最近は、新型コロナウイルス感染症について不安やストレスを抱える方も増えています。テレワークが急遽始まり、在宅勤務などで孤立感を感ずる方も少なくないでしょう。 メンタル不調は早期発見、早期対処が基本です。メンタル不調で休業に至れば、労働者本人も会社にも大きな損失です。復帰までに時間がかかり、さらに、一旦復帰しても再び休業するというケースも少なくありません。
まず簡単にできることとして、管理職からの日常的な声掛け、相談できる雰囲気づくり、相談のための体制を整えていく必要があります。
これらも、経営者が問題意識を持って真摯に取り組む姿勢を見せることが大切です。現場の管理者任せでは、重大な兆候を見逃すことにもなりかねません。

(参考)
経済産業省
「健康を保持・増進する7つの行動」(「健康経営オフィスレポート」より)
厚生労働省
労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度実施マニュアル
ポータルサイト「こころの耳」(働く人のメンタルヘルス)

4.経営者が健康宣言を行えば会社には4つの効果が期待される。

健康宣言 期待 経営者が健康宣言を行えばどのような効果が期待できるのかをまとめておきましょう。
経営者の宣言は経営者の社内外へのコミットメントです。様々な効果が得られることがご理解いただけるでしょう。

①宣言により内外への直接的なPR 効果が得られる

応募すれば協会けんぽ東京支部のホームページに掲載していただけます。
これが対外的なPR にもつながります。
さらに、協会けんぽから「宣言の証」を送ってもらえます。これを職場で掲示しましょう。
従業員にとって、経営者が本気で取り組んでいることをはっきり理解していただけるでしょう。
(参考)協会けんぽ東京支部「健康企業宣言に取組んでいます!
健康宣言に取り組んだ企業が一覧表として掲載されています。

②経営者のコミットメントが従業員の行動変容を促す。

わかりやすい例で言えば次のようなことです。
従業員の中には自分の健康を過信して、健康診断の受診さえしない人もいるかもしれません。経営者が「健康診断100%受診」と宣言すれば、大多数は受診する事でしょう。
禁煙や受動喫煙防止対策も、前述の通り、経営者が本気で取り組めば、ヘビースモーカーも禁煙のきっかけになる事でしょう。上司のヘビースモーカーのために煙たい思いを我慢していた部下も、思い切って上司に注意するようにもなっていくかもしれません。
従業員全体に、健康増進が会社にとっての重要課題と認識されれば、職場の健康作り、運動への取り組みなど、従業員自身が自発的に様々な行動を起こすような行動変容が期待できるでしょう。

③健康宣言による健康への取り組みが、従業員の実際の健康増進につながる。

前述②で示した様々な行動変容は、従業員の実際の健康増進につながる事が期待できます。
健康診断で再検査等を指示された人がちゃんと再検査を受ければ、疾病の早期発見・治療につながります。
たとえ喫煙者の完全な禁煙に至らなくても、喫煙マナーが徹底すれば、周囲へのたばこの害も少なくなるでしょう。
運動習慣や食生活への注意が浸透すれば、従業員の健康増進につながるでしょう。
職場の中でお互いに体の健康への配慮を行う風土が醸成されば、こころの健康にも好影響をもたらすでしょう。

④健康宣言は従業員を大切にする会社という内外へのアピールとなる。

健康宣言は、経営者が従業員の健康を重視するという姿勢を示すことであり、従業員を大切にするという約束です。この約束は現在の従業員の士気(モラール)を高めるだけではありません。将来的には人材の採用や従業員の定着率向上などにも好影響をもたらすでしょう。
さらに、従業員を大切にするという姿勢が取引先などへの信頼にもつながっていく事でしょう。

5.まとめ

健康経営は経営者の健康宣言から始まります。その理由をご理解いただけたでしょうか。
従業員の健康増進は従来、福利厚生や安全衛生の問題としてとらえられることが多かったと思われます。
これに対し、健康経営は、従業員の健康増進への投資こそが企業の成長のエンジンになり、企業の業績向上・価値向上につながると考えます。このような経営戦略の一環である以上、経営者が主導して取り組むことが必要になります。
健康宣言そのものが社内外へのアピールにもなるとともに、従業員の実際の健康増進につながり、生産性向上、企業価値向上をもたらしてくれるでしょう。

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