• 有識者
  • 2020.03.30

すべての人の利害が一致している健康経営とは

  • 日本商工会議所会頭
    兼 日本健康会議 共同代表
  • 三村 明夫
  • 有識者
  • 2020.03.30

すべての人の利害が一致している健康経営とは

  • 日本商工会議所会頭
    兼 日本健康会議 共同代表
  • 三村 明夫
目次

渋沢栄一が作った商工会議所の思想とは

渋沢栄一が作った商工会議所渋沢栄一は、新一万円札の肖像画として採用されることになり、来年のNHK大河ドラマの主人公としても描かれることが決まっています。少しだけ渋沢のことを話しますと、彼はもともと埼玉県深谷の農家出身ですが、その後徳川慶喜の家臣等を経て、明治維新の後は、一時期、民部・大蔵省に任官していました。しかし、商売をしてみたいという思いが強く、退官後は、第一国立銀行(現在のみずほ銀行)の設立に携わり、頭取に就任しました。その後も実業界に身を置き、彼が設立にかかわった企業は、約500社にのぼり、「資本主義の父」と称されています。

1878年(明治11)には、「民の繁栄が、国の繁栄につながる」という信念のもと、日本初の商工会議所(当時は東京商法会議所)の初代会頭に就任しました。こうした渋沢の考えの中心になったのは、「企業は利益を上げなければならないと同時に、公益についても考えなければならない。両者は高い次元で両立する」という思想であり、この考えは、株主のために企業は存在するといった英米型の資本主義とは違い、企業はすべてのステークホルダーのために存在するという日本型の資本主義に大きな影響を与えたと思います。

深刻な人手不足に直面する中小企業

深刻な人手不足中小企業の人手不足は、深刻化しています。当所の調査によれば、「人手が不足している」と回答する中小企業は年々増加しており、足元では約66%にまで達しています。

そもそも日本では生産年齢人口が年率50万人のペースで減少していることに加え、厚生労働省の調査によると、大企業から中小企業への転職者数が年間約50万人であるのに対して、中小企業から大企業への転職者数は約105万人、したがってネットで毎年50万人規模の人材が中小企業から大企業に流出しており、これらの状況は今後も続くと予想されます。

このように、人手不足は今日より明日、明日より明後日とますます深刻になる課題であり、日本の全企業のうち99.7%が中小企業・小規模事業者であることを踏まえると、人手不足は中小企業のみならず、日本経済全体の課題であると言えます。これをどう解消するべきか、皆で真剣に考えなければなりません。

従業員が病気になることで困るのは本人だけではない

従業員の病気このように中小企業は深刻な人手不足の状態にありますが、そうした中で、もし従業員が病気になってしまった場合、どういったことが起きるでしょうか。

病気になった本人は仕事ができなくなり、治療している期間は、収入が減少するため家計に影響が出ます。また、企業にとっても、病気や怪我で突然出社できない従業員がいると、経営の安定性が確保できなくなります。中小企業では、一人ひとりの担当する業務範囲が広いため、他の誰かがカバーをすることが難しく、また、すぐに新たな従業員を採用することも容易ではありません。景気が回復したことで仕事量は増えているものの、肝心の働き手が足りないために仕事を受けられず、かえって経営難に陥ってしまう可能性もあります。

一昔前までは、少ない人数で、多くの仕事をこなしてくれる従業員がありがたいと思っていたかもしれません。ですが、今や、多くの仕事を抱えている中で、一人の従業員が倒れてしまったら、同じように企業も共倒れになってしまうこともあり得るのです。

中小企業が健康経営に取り組む意義

健康経営取り組みこうした中、近年、「健康経営」という経営手法が注目されています。健康経営とは、「『企業が従業員の健康に配慮することによって、経営面においても大きな成果が期待できる』との認識に立って、経営者自らが従業員の健康管理を経営的視点から捉え、戦略的に実践すること」であり、各企業の生産性向上や経営の安定性の向上に繋がるだけでなく、人口減少・超高齢化社会に突入する中で、社会全体としての“健康寿命の延伸”と“医療費の適正化”に大きく貢献すると考えられています。

人手不足に悩む中小企業が積極的に健康経営に取り組むことは、従業員のモチベーションの向上と組織の活性化、従業員の心身の不調による離職の防止などに加え、企業イメージの向上による人材採用力の強化など、生産性向上や人手不足の解消に向けた様々な効果が期待できます。

また、経済産業省の調査によれば、取引において、サステイナビリティの観点から相手企業の健康経営の取り組み状況を把握・考慮する企業が増加傾向にあることから、取引先の維持・拡大という面でも効果が期待できます。

したがって今後は、中小企業経営者も、従業員の健康維持・増進に必要な経費を「コスト」ではなく、将来への「投資」と捉え、健康経営に積極的に取り組んでいく必要があります。

誰にとっても利益のある健康経営とは

従業員と企業健康経営は、従業員と企業の双方にメリットがありますが、実は国や地方自治体にとってもメリットがあります。

日本は長寿大国と言われていますが、高齢者の増加や医療の高度化によって、医療給付費は年々増加しており、国や地方の財政を圧迫している状態です。これを少しでも軽減させるには、企業をはじめとして様々な組織が健康経営に取り組み、健康寿命を延ばすことが必要です。

働いている人が、日頃から心身ともに健康な状態を保ち、生活習慣病などにかかることがなければ、将来的に大病を患う可能性が低くなります。そうなれば、国や地方が負担している医療給付費を軽減することができます。

健康経営は、従業員、企業、国・地方の三者、どの立場から見ても利益のある取り組みと言えるでしょう。
 

商工会議所における健康経営の取り組み

商工会議所現在、全国の約7割の商工会議所が健康経営に関する取り組みを実施するなど、地域の会員事業者の健康経営を積極的に後押ししています。例えば、東京商工会議所では、健康経営の必要性を伝え、実施へのきっかけを作る人材を育成するための研修プログラムを開始し、「健康経営アドバイザー」として認定しています。

また、蒲郡商工会議所(愛知県)では、2016年に、働く人の健康づくりの推進やアンチエイジングサービスの事業化等を盛り込んだ長期ビジョンを策定し、市や協会けんぽと連携し、地域の企業に対しての健康宣言の勧奨や、地場産品を活かした健康食品の開発等を支援しています。さらに、徳島商工会議所では、健康経営優良法人認定へのステップアップとして、健康経営に取り組む企業を同会議所が認定する「MS認証制度」を創設しました。認定企業は、会報等でのPRや、求人票に認定取得ロゴを掲載して求職者にアピールできるなどのメリットがあり、2019年12月時点で42社が認定を受けています。

このように各地の商工会議所では、自治体や地域の医師会、協会けんぽ等と連携した独自の活動を展開するなど、健康経営の普及に努めています。

日本健康会議の取り組み

日本健康会議2015年7月、経済界、医療関係団体、自治体のリーダーが手を携え、民間主導で“国民の健康寿命の延伸”と“医療費の適正化”を図っていくことを目的に「日本健康会議」が設立されました。当会議の共同代表には、私とともに、日本医師会の横倉会長が就任し、経済界と医療関係者が共に健康経営の普及に取り組んでおります。また「地方版」健康会議が現在までに全国12の都市で開催されるなど、活動のすそ野が全国各地にも広がりはじめています。

日本健康会議では、2020年の達成目標として以下の「8つの宣言」を行い、国民一人一人が健康になるための取組みを行っています。このうち、宣言5の健康宣言等に取り組む企業数については、当初1万社を目標としていましたが、協会けんぽと商工会議所の連携による普及・啓発活動や、自治体による表彰等が功を奏し、早期に目標を達成したことから目標を3万社に上方修正したところ、2019年8月時点でさらにその目標を超え、約35,000社となりました。

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1.予防・健康づくりについて、一般住民を対象としたインセンティブを推進する自治体を800市町村以上とする。
2.かかりつけ医等と連携して生活習慣病の重症化予防に取り組む自治体を1500市町村、広域連合を47団体とする。その際、糖尿病対策推進会議等の活用を図る。
3.予防・健康づくりに向けて47都道府県の保険者協議会すべてが、地域と職域が連携した予防に関する活動を実施する。
4.健保組合等保険者と連携して健康経営に取り組む企業を500社以上とする。
5.協会けんぽ等保険者や商工会議所等のサポートを得て健康宣言等に取り組む企業を3万社以上とする。(※2018年度より目標を1万社から3万社に上方修正)
6.加入者自身の健康・医療情報を本人に分かりやすく提供する保険者を原則100%とする。その際、情報通信技術(ICT)等の活用を図る。
7.予防・健康づくりの企画・実施を提供する事業者の質・量の向上のため、認証・評価の仕組みの構築も視野に、保険者からの推薦等一定の基準を満たすヘルスケア事業者を100社以上とする。
8、品質確保・安定供給を国に求めつつ、すべての保険者が後発医薬品の利用勧奨など、使用割合を高める取り組みを行う。
(※日本健康会議HPhttps://kenkokaigi.jp/about/index.htmlから抜粋)
―――

また同会議では、経産省の協力のもと、健康経営に取り組む企業を見える化して、従業員や求職者、関係企業や金融機関等から評価を受ける環境を整備するために、2016年8月に、「健康経営優良法人認定制度」を創設しました。大規模法人部門と中小法人部門のそれぞれで「健康経営優良法人」を認定しており、現在、中小法人部門では約4,700法人が認定されています。

さらに厚労省・経産省と協働で、被保険者の健康状態や医療費、保険者の予防・健康づくりの取り組み状況等をスコア化し、全国平均や業種平均と比較して当該保険者の立ち位置を“見える化”する目的で、2018年8月より、「健康スコアリングレポート」を作成し、各健保組合に送付しています。

実際にかかっている医療費の金額とは

医療費の金額厚労省が発表した2018年度の概算医療費は42.6兆円で、過去最高を更新しました。膨れ上がる医療費を抑制するためには、病気にかからないように予防することが重要です。例えば、認知症は、「生活習慣病を患った人」、「社会的に孤立している人」、「運動不足の人」が、かかりやすいと言われています。糖尿病についても、適切な治療を行わないことで腎不全を患い、人工透析を必要とする場合もあります。

多くの国民が、働き盛りの若い時から病気の予防を心掛けることで、将来的な認知症や糖尿病等の患者数の増加を抑制することが可能となります。それにより、国の財政を圧迫している医療費を適正化することで、介護や医療の分野に振り向けてきた資源をその他の分野に回すことが可能になりますし、財政の持続可能性を高めることができるようにもなります。

誰もが賛同できる健康経営を増やすために

健康経営を増やすしかしいざ健康経営をやろうと思っても、どのような効果があるのかが分からず一歩を踏み出せない経営者もいると思います。そうした方々に伝えたいのが、健康経営には、具体的なメリットもあるということです。

例えば、健康経営優良法人に認定されれば、金融機関による低利融資、業務災害補償の保険料割引など、様々なインセンティブが用意されています。また、企業イメージの向上により、採用が有利になった、という声も聞きます。人手不足の中で、採用マーケットはますます売り手市場になってきておりますが、そうした中、従業員の健康に配慮しない、いわゆる「ブラック企業」はますます敬遠される傾向が強くなり、逆に「健康経営優良法人」に認定されているような「ホワイト企業」を選びたい、というニーズが増えてきています。

今後の「にじいろ」に期待にすること

健康経営に取り組む企業健康経営に取り組む企業は、大企業のみならず中小企業においても年々増加しており、取り組みの機運をさらに高めていくことが重要だと考えています。

規模に関係なく、すべての企業が健康経営に取り組むことが当たり前になれば、日本の課題である“国民の健康寿命の延伸”と“医療費の適正化”に大きく貢献すると期待しています。

そのためにも御社には、健康経営のもたらすメリットや、優良事例の横展開などの情報発信に積極的に取り組んでいいただき、多くの方々に健康経営の必要性を訴えてもらいたいと思います。

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