• 有識者
  • 2020.02.03

従業員が健康でなければ企業の未来に光はない 経営者が持つべき「健康経営」の視点とは

  • 特定非営利活動法人 健康経営研究会
    理事長
  • 岡田 邦夫
  • 有識者
  • 2020.02.03

従業員が健康でなければ企業の未来に光はない 経営者が持つべき「健康経営」の視点とは

  • 特定非営利活動法人 健康経営研究会
    理事長
  • 岡田 邦夫
目次

NPO法人 健康経営研究会の歩みについて。

NPO法人 健康経営研究会NPO(特定非営利活動)法人 健康経営研究会は2006年に設立されました。実は、その3年以上前に、これからの企業における健康管理のあり方について、10名ほどのメンバーが集まって月1回の意見交換会を行いました。その理由は、私たちの原点が平成7年の「高齢社会対策基本法」に記載されている我が国の将来に対する危機感にあったためです。

我が国の将来は極めて深刻な高齢社会が訪れ、少子高齢化が進んでいきます。そうなったとき、我が国はどうなっていくのだろうかということを、高齢社会対策基本法が施行されたあとに、当時の厚生省、労働省、通産省がいろいろな研究会を開いて議論をしました。たまたま、私は産業保健の立場から3つの省の委員会に入らせてもらったのです。そこで非常に強いインパクトを受けました。確かに人口動態の将来の人口予測を見ると、我が国は高齢社会になって、一方少子化が進み、結果として労働生産人口が減少するという予測がされていました。まず危ないと思ったのが、当時の定年だった55歳という年齢。当時、55歳というのはかなりの高齢者に見えたわけですが、この人たちが60、65歳まで働けるのかということです。戦後に増えてきている糖尿病の問題もありますし、その他の生活習慣病も増えてきている。こういった中で日本企業の力が、これからいったいどうなっていくのだろうか。その原点として「健康」をどう捉えていくのかということを、みんなで議論しました。

そこで2005年、これからの高齢社会に向けて、NPO法人を作って啓発しようということになりました。「健康管理」に関しては労働安全衛生法で決まっていましたが、それに上乗せした形で「健康づくり」をどうしていけばいいのかを啓発する目的で、NPO法人設立を申請し、2006年3月に認可されてNPO法人 健康経営研究会が設立されたという経緯があります。

設立当時は健康意識の高い企業の経営者が少なかったという現実。

健康意識の高い企業NPO法人を設立して、まず始めたのは、今までの「健康づくり」は本当に有効なのかという検証です。我が国には、世界に類を見ない労働安全衛生法によって、事業主は従業員に健康診断実施義務があり、守らない企業には罰金刑まで課しています。しかし、それが果たして十分な効果を発揮しているのかどうか。そして効果を発揮するためには、どうしたらいいか。当時の労働省での事業に、300人以下の事業所で経営者が健康診断を受けて健康意識が高いと、従業員も健康であるという報告結果がありました。つまり経営者の健康意識によって、従業員の意識も変わってくるのではないかという考え方が出てきたのです。

そこで国策として、「THPステップアッププラン」というものを作りました。経営者に健康づくりの意識を高めてもらうための事業として行ったのですが、あまり関心のある方は多くありませんでした。確かに、健康づくりの意識が高い経営者のいる企業の従業員はハッピーなのですが、経営者が健康意識に関心のない企業のほうが多かったのです。この「THPステップアッププラン」を取り入れる企業が少なく、結局数年でしぼんでいってしまいました。これは非常に残念なことで、日本は将来、少子高齢化社会になるから、経営者は従業員が退職した後も元気にセカンドライフを送れるよう、労働生活の中で健康意識を高める取り組みをすることで従業員の健康と企業の両立の機会を失うことになるのです。 これによって地域も活性化し、従業員本人も退職してから元気に生活ができる考え方を持とうという呼びかけでしたが、これに企業がほとんど同調しなかったという結果だったんです。

「健康経営」は事業としての経営戦略として投資するべきもの。

経営戦略健康意識の低い企業の経営者が多い現状では、NPO法人としてできることは「これから少子高齢化で大変な時代になる」「人が集まらなくなる」「従業員もどんどん高齢化していく」ということを啓発していくことです。そのためには、従業員が入社してから退職するまでの拘束時間の中で、健康づくりも一つの事業として進め、そこで利益が出るようにしなければいけません。もし経営者が従業員の健康づくり意識を高め、エンゲージメントを高め、労働生産性を向上させれば一石二鳥です。我が国がアメリカのヘルシーカンパニーと違うのは、労働安全衛生法があり、健康保険制度があり、そして健康診断を受けることに関して従業員が特に違和感を持たないという点です。この3つが揃っているから、我が国はアメリカと違った健康づくりができるはずなのです。

このような経緯から、私たちは「健康経営」という経営の視点で健康づくりを進めていこうという新しい言葉を作りました。上手くいかないだろうと思いつつ、特許庁に商標登録を申請したところ、なんと通ったんです(笑)。それまでは「健康経営管理」という言葉でセミナーなどを行ってきたのですが、2006年から管理という言葉をやめようということになりました。管理というと、国が決めた法律とかマネージメントの世界なのですが、そうではなくプロモーションとして健康づくりに力を入れようということで、今は商標登録も取ったため「健康経営」という言葉を使っています。健康経営とは、経営者が従業員の健康づくりを経営戦略として進めていこうという考え方です。つまり、事業として投資して行うのが健康経営なのです。

健康経営の啓発を長年続けてきたモチベーションとは?

健康経営の啓発結論から言えば、私たち医療職が夢を追わないと面白くないというのがモチベーションです。NPO法人は潰れることがないため、2年に1回フォーラムを開いたり、経営者を呼んでセミナーを開いたりしてきました。ただ、参加者にアンケートを取ったところ、惨憺たる結果だったのです。「これからの経営戦略として従業員の健康づくりと少子高齢化に向けて」などと言っても、従業員の方が聞きに来たら「役に立たなかった」、「こんな話は経営者が聞くべきだ」と。要するに健康経営のセミナーですから、経営者の視点で健康を考える話をするのですが、聞きにこられたのは、一般従業員の皆様だったんです。

希望的観測で、この一般従業員の方々も何年か経てば管理職になるのではないかという理由でセミナーなどの開催を続けてきました。そうしたら6年ほど前、経産省から急に電話がかかってきて「健康経営は国策として行います」と言われました。

それから経産省が東京証券取引所と一緒になって、健康経営のルールを作り、検証を始めるというふうに広がってきたのです。最初は関心のなかった企業も、直近の健康経営度調査には2,300社以上が回答しています。ただ、これは当然、私たちが予測してきたことであって、少子高齢化になったときに多くの方はブラック企業に入社することを躊躇するでしょう。自分が入社を希望する企業が大企業だったら調べるソースも豊富ですが、中小企業の面接を受けた際に、そこがブラック企業なのかホワイト企業なのかわからないことが多いのです。それが、今回、国が認定するということで「国が認めた企業なら悪いことはしないだろう」という判断基準ができました。経産省も、認定した企業に何か法律違反があったら大きな問題になります。つまり、健康経営優良法人に認定されるのはホワイト企業という認識に対する信頼性が高まっているのです。

たとえ中小企業だろうと健康経営優良法人の認証を受けた企業なら安心だろうという見方になります。社名を知らなくても、経産省と厚労省と日本健康会議が認定していたら、どう考えても悪い会社じゃないだろうということになります。そうなると、人を集めるのに健康経営優良法人を取っておかないと誰も来ないのではないか、ということになってきました。本来、健康づくりなどは投資価値がないと思われてきましたが、人を集めるために健康づくりに取り組まないと人が集まらずに倒産してしまいます。最近は「人手不足倒産」というのが増えてきたそうです。人材不足は中小企業ほど切実なので、健康経営優良法人を取っている企業に人が殺到しているということが採用の現場で浸透してきたから、企業サイドも無視できなくなってきたということなのです。

健康経営に関するビジネスも急増している。

健康経営に関するビジネス人を集めるために健康経営に取り組む重要性は浸透し始めています。しかし、中小企業にとってはお金の問題が出てきますよね。そこで健康経営を行っている企業には、低金利で融資をするという動きが始まっているのです。さらには従業員のローンの金利を下げるという金融機関も出てきました。なぜなら、健康経営に取り組んでいるのは安心できて、潰れる心配のないホワイト企業だから。そうなると他の中小企業の経営者も「健康経営優良法人の認定を取っておいたほうがいいのではないか」とポジティブに考えるわけです。

そして、これにいち早く反応したのが生命保険会社です。トップが中小企業を支援すると言った某生命保険会社では、健康経営優良法人の支援という方針として、営業マンが健康経営アドバイザーなどの資格を取り、保険を売りに行くのではなく、「御社をもっと元気にするアドバイスをさせてください」と営業に行くのです。そして、説明しているうちに「君のところの保険に入ろうか」という話になるんです(笑)。このように、私たちの考えているウィン・ウィンの関係を構築できれば、誰も損をしないのです。従業員の健康づくりに投資した企業は、見合ったぶんだけリターンがある。そういう社会を作っていかないといけないので、みんながそういう考え方になってくると、多くの生保会社も追従してきます。最近では、健康づくりに取り組むことで保険料が減額される商品も世に出るようになっています。

こうした健康経営の施策は経産省が誘導しているわけですが、日本のビジネス全体を高めていって、日本全体の活力を上げていこうというものです。一方で、厚労省は違反のある企業を法令に基づいて行政指導していくわけです。経済産業省並びに厚生労働省さらに日本健康会議という民間の団体を入れ、健康経営優良法人を認定するようになりました。NPO法人設立当初は、こんな時代になるとは思ってもみませんでした。ようやく私たちが昔、警鐘を鳴らしてきた少子高齢化による人手不足と、従業員も高齢化して病気になるといったことが現実感を持って受け止められるようになってきたのです。

国は健康経営を進めることでヘルスケアビジネスの成長を期待している。

ヘルスケアビジネス医師の立場である私の考えですが、健康づくりには強制力が必要です。たとえば会社のトップが全社禁煙を決定するとします。その日からいきなり禁煙というのは人権問題などもありますので、例えば3年かけて会議中は禁煙、喫煙スペースのみ可、全面禁煙という段階を踏みます。そして喫煙者に禁煙外来の金銭的なサポートを行う。こういった投資を会社が行えば、その会社の喫煙者が禁煙できたことで、その後の病気のリスクが大きく減ります。これもウィン・ウィンの関係ですよね。このように、みんなが合意のもとで企業が投資してタバコをやめさせる。このように動いていくと強制力が働くのです。労働生活の中では経営者が言えば強制力が働くため、そちらに進むのです。私たち医師が健診を受けるように言ってもなかなか受けに来ないのですが、経営者が従業員に受けるように言えば来るようになるんです。

経営者が健康という視点を持つことで、従業員が元気に働いて労働生産性、職務遂行能力の高い状態を維持できれば、経営者はハッピーですよね。一方、従業員も健康な状態で定年退職できて、元気なセカンドライフが送れる。これもハッピーですね。また、国から見れば高齢者は医療費が高いので、企業が効果的な健康づくりに取り組めば退職後の医療費も減ってハッピーなのです。だから国は企業に「健康経営」の取り組みを勧めるのです。そして、取り組んだ代わりにいい会社という認証を与える。そうすると、その企業には人が集まってくる。つまり、誰も損をしない構図ができあがってくるのです。

経産省の目的は何かというと、ヘルスケアビジネスを日本でもっと広げたいのです。日本発の健康づくりをビジネスにしたい。たとえば今、フィットネスクラブが東南アジアに展開しようとしていますが、ベトナムにできた日本企業のフィットネスクラブは富裕層が集まってきて満杯です。日本企業のフィットネスクラブは清潔で、マシン設備も整っており、クオリティが高いと評判になっています。

また経産省の発表の中で、カンボジアやマレーシアに内視鏡センターを設立して、日本のドクターが内視鏡を教えに行っています。なぜ国策として行うかというと、日本企業の内視鏡が売れるからです。このようにヘルスケアビジネスによって日本の国力を活性化するために、どんどん海外進出を奨励しているのです。日本国内でマーケティングを行い、海外に出ていくというモデルとなっています。そのため、ヘルスケアビジネスを手掛ける企業は成長しています。クオリティの高いヘルスケアビジネスを行えば利益を創出することができます。海外にも進出できる。そうなれば、日本のヘルスケアビジネスは自動車産業と同じように世界進出が可能です。現在、経産省は東南アジアをターゲットにしていますが、これは日本の健康づくりの対策が、東南アジアの人々なら米が主食など同じような風土なので効果が期待できるからでしょう。だから、そこを拠点にして日本で成功したものを発信しており、現地でも好評となっているのです。

このように日本国内でも健康経営に対するビジネスがどんどん生まれてきており、当初私たちが期待していた以上の効果があって、逆に私たちは驚いている感じです。
 

今後、企業に求められる健康経営について。

健康経営基本的に、従業員が病気になれば労働生産性が下がります。さらに入院などで休む従業員も増えます。まず私たちが考えるのは、従業員に出勤してもらわないと企業は成り立たないということです。ただ、出勤している従業員はいるけど、業務遂行能力が落ちているという問題があります。経産省の指標として「健康診断受診率100%」というものがありますが、健康診断を受けていても、年々、健康状態が悪くなっているというケースが多いのです。毎年健康診断をちゃんと受けているのに健康状態は悪化していっている原因は、産業医による指導の問題です。医師、保健師による従業員の行動変容を伴うような保健指導が行われていないということになります。そこで、健保連と一緒に行っているのが、保健師の保健指導能力を高めるための研修です。

もうひとつのテーマとして、出勤はしているけど仕事はできない従業員がいるケースです。この問題に関しては、管理職の責任になります。指導力が不足しているなど、働かせ方の指導ができていないからです。それでは、経営者はどうやって管理職を育てていくか。日本の労働生産性(1人1時間あたり)は世界で20位以内に入りません。1時間当たり約40ドルなんです。これに対しフランスは、約60ドルです。夜寝ている時間も1時間長い。つまり、よく寝て労働時間が短い国のほうが、夜も寝ずに長時間労働している日本よりも労働生産性が高いというおかしな話になっているのです。ここを解決していかなければならない。そこで、たとえば寝具の会社が動いて快適に眠れるような商品を開発したり、製薬会社が目覚めのよい薬を開発したりといったビジネスが考えられるわけです。

経営者は労働生産性の高い従業員をどのように育成したらよいのでしょうか。たとえばA社では、朝食を食べていない従業員がいると労働生産性が落ちるため8時に朝食を無料で提供という施策を行いました。現状に即して社長が従業員の健康づくりに投資し、従業員は朝そこに行けば無料で朝食が食べられるので早起きするようになり、さらに帰って早く寝るようになります。こういう習慣ができると、企業の労働生産性も高まります。会社にとっても従業員にとってもハッピーですよね。こうした企業が増えているのは、経営者の意識が高まってきたということです。要するに経営と従業員の健康が直結していることに気づき始めたのです。先見の明がある経営者は、すでに健康経営を始めているため伸びています。そうでない企業は業績を落としている。そこに競争意識が発生している状況なのです。

健康経営という視点で経営者が決断しない限り、企業の将来に光は見えません。健康経営の取り組みが、企業の未来を予測しているということでもあります。経営判断として、今後は健康づくり・健康経営に取り組まなければならないということは言うまでもありません。企業の経営者は、自社にどのような問題点があるかを正確に把握し、どこに投資すれば効果が出るかということに対しては専門家です。健康経営優良法人の認証を取った企業は、産業保健スタッフに問題点を挙げさせて、どこに投資すれば効果があるかを判断して効果を上げてきました。これこそが、これから企業に求められる健康経営のあり方です。

自社の問題点と将来像を見定めている経営陣が、従業員の健康づくりをどうしていくのかも考えながら、そこに投資することを考えない限り、企業の寿命はどんどん短くなっていくでしょう。企業は人なしには考えられません。どうやって人を育てていくか。その結果として、健康経営に結びついているといえるでしょう。経営者は、従業員が健康でなければ労働生産性は高まらないという基本的なコンセプトを持たないといけないと思います。
残されている時間はわずかです。
 

「にじいろ」に期待する役割は

健康経営取り組み企業には経営者、管理職、従業員というポジションがありますが、現状では管理職が従業員とコミュニケーションを図るのが一般的です。しかし、本来は経営者が従業員とコミュニケーションを取れるような企業を作ることが大切なのです。経営陣は大きな力を持っていますが、その力を従業員に注ぎ込むことが重要で、従業員と親しく接し、経営者の持つパワーを従業員に与えることで企業は成長していきます。今の若い従業員に将来どこまで出世したいかアンケートを取ると「別に」と答える人が多いのですが、社長を見て「私も社長みたいな人になりたい」と思う従業員を作れば、企業の活力は上がっていきます。しかし、社長にもなりたくないし、中間管理職になってもつらいだけなのでなりたくないと思う若い従業員がほとんどなのです。そうなると企業の活性化は望めないので、社長のパワーをきちんと従業員に注ぎ込み、夢を語り「君たちにも、この夢を実現してほしい」と伝えることで、エンゲージメントやパフォーマンスが高くなります。そういう経営者や管理職のパワーと従業員に伝えるためのサポート役を「にじいろ」が担っていただけたらと思います。

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