• 経営者
  • 2020.08.12

2人の社員が残した気づき 健康経営が地域を巻き込む大きなうねりに

  • くまもとKDSグループ
    (菊池自動車学校・熊本ドライビングスクール)
    代表取締役
  • 永田 佳子
  • 経営者
  • 2020.08.12

2人の社員が残した気づき 健康経営が地域を巻き込む大きなうねりに

  • くまもとKDSグループ
    (菊池自動車学校・熊本ドライビングスクール)
    代表取締役
  • 永田 佳子
目次

2人の社員が示してくれた、健康経営への道

株式会社KDS熊本ドライビングスクール

私がくまもとKDSグループの代表取締役になったのは平成21年。その頃、立て続けに2人の社員が生活習慣病が起因した病気で亡くなりました。ご家族の心痛を思うと苦しかったですし、つい一週間前まで一緒に仕事をしていた仲間がいなくなるのは、自分自身にとっても辛い体験でしたね。

KDSに入社する前は、専業主婦をしていました。だからよく主婦感覚の経営とか利益度外視とか言われます、でも一応利益も出ています(笑)。経営者になりたての第一の仕事が「社員の健康管理」になりました。亡くなった二人の共通項は愛煙家だったということです。加えて、健康診断で要再検査の結果が届いてもそのままに。自分だけは大丈夫という痛みを伴わない生活習慣病の恐ろしさを知らないのが二人を含めた会社全体の実情でした。

又、ランチの時間スタッフルームをのぞいてみると、ロッカーに大量にストックしたカップ麺を食べたり、毎日同じ揚げ物のお弁当を食べるスタッフが大勢いて、医食同源を信じる元専業主婦としてこれは見過ごせない実態でした。

食事も整えないといけないし、禁煙も進めよう。生活習慣病を知り、検診の結果もきちんと受け止め、予防してもらおう。そう決意しました。健康経営という言葉さえ知らない頃のことです

めざすのは『健康でやる気のある絶好調社員』を増やすこと

KDS熊本ドライビングスクールは2020年で創立56周年になります。若いお客様が多く、最近は外国から来られた方も多く通われております。社員数は110名程度で、ベトナム、ミャンマー、ネパール、香港出身の社員もいます。最高齢の社員は70歳を超え、多彩な職場だと思います。
 
創立記念式典車離れや少子高齢化が進み、なかなか経営が大変になってきた自動車学校の昨今です。私がこの業界に入った平成19年頃から比べ、熊本県全体の自動車学校入校者数は16%減少しております。しかし、KDSは16%アップしています。その理由は健康経営が礎となって、新規事業・事業拡大を行ってきたからです。例えば外国人の入校者受け入れを積極的に始めたり、企業人の運転再教育、発達障がい者の運転免許取得のサポートなどあまり同業他社が触手を伸ばさないフィールドへの取り組みをしてきました。新規事業にはエネルギーが必要です。健康から生まれるやる気がそのエネルギーに繋がります。

前章で述べたように、在職中に亡くなった社員がいたこと、生活習慣病を知ってもらおうと決心したことは健康経営を始める大きなきっかけになりました。それに加えて、やる気のある絶好調の社員を増やしたいという考えが根底にあります。どんな人でも年齢を重ねると、身体のどこかしらに不調が出てくるものです。それは当たり前のことですが、早期発見・早期治療することで回復も早く健康体になります。健康だと意欲的に仕事に取り組むことができると考えます。

再検査の報告は業務の1つ

我々の業界の特徴として、例えば普通車、二輪車、大型車などいくつかの車種があり、それぞれの指導資格は年齢を重ねないと取れないという特徴があります。だから、入社して間もない20代の社員と60歳近い社員では資格の数が全く違うんです。定年を迎えても、定年の延長、さらに生涯現役でという思いの社員がいてくれることは会社にとっても大きなメリットになります。

検診で再検査や要治療と診察された社員は、たとえ繁忙期であっても通院や投薬に通うよう通達を出し、再検査結果なども含めてすべて報告するということを就業規則に規定しました。業務ですね。もし行っていない人がいると、衛生委員会から「行ってくださいね、まだ結果の報告が出てないみたいですよ」と優しくお声がかかります(笑)。社員の健康をしっかり管理できる体制を整えました。

年に一回の健康診断後、産業医と ONEonONEで面談することも仕事のうちと位置づけています。ずっと同じ産業医の先生にお願いしているので、社員も相談しやすいようで。検査結果を見て一緒に喜ぶ社員がいたり、メタボの通達が来ないように頑張っている社員がいたり、それぞれが先生を頼りにしているようです。私も色々なことを相談する機会が多いです。「影のブレーン」と呼ぶことも(笑)。頼りになるメンターです。
 

健康が生み出す企業発展の好循環

ふつうの社員が作ってくれた、健康へのきっかけ

最近、社員の中にも健康経営の意識が根付いてきていると感じる場面が増えてまいりました。
KDSは、希望する社員に社食を提供しています。管理栄養士さんがカロリー計算・栄養のバランスを考えた献立のランチを専門業者さんから1食440円で仕入れ、220円は会社が負担しています。440円だと「コンビニで好きな物を」という社員が出てきてしまうおそれがあります。社員の背中を押すつもりでこの値段を設定しました
 
社員食堂ある日、コンビニで千切りキャベツを10袋くらい購入している社員を発見しました。理由を聞くと「食事の最初にサラダから食べると血糖値が急激にあがらず健康にいいベジファーストを実施しています」と答えてくれました。「自分も買う」という社員が増えて、代表で買いにきたようでした。身体のことを考えて行動している社員がそんなにいるんだ!と驚きましたね。
ただ、毎日食べていると消毒のニオイが気になってくるそうで、そうなると私の出番です。ここは熊本農業県。栄養たっぷりのお野菜を作っている農家さんが多い地域です。一人100g100円の予算で採りたてのベビーリーフを仕入れ、サラダバー方式で提供することを始めました。社員がこういったきっかけを作ってくれ、大変嬉しかったです。社員の健康を応援していると、社員も自ら考え行動する様になり、私もさらに応援するという好循環が生まれた良い事例だと思います。

手強かった禁煙の壁と、乗り越えた先

健康経営をしていく上で、最も手強い、最も内外からの反響が大きかったのが禁煙です。私が就任した当時、社員の81%、男性社員のほぼ全員が喫煙者でした。

一番最初に取り組んだのは喫煙時間の限定。その時間になると禁煙中の人の横でお構いなく吸う人の姿を見かけ、廃止。喫煙コーナーを外に出すと伝書鳩のように並んで吸い始め、苦情の電話も頂きました。屋内に喫煙ルームを作ると吸いだめが始まり、服や髪につくニオイがひどくなるサードハンドスモークで最悪の結果に。

このように、禁煙は失敗の連続。「嗜好に口を挟まれたくない」と退職した社員もいました。どうしたものかと外部の人にいろいろ相談。ある時「会社が禁煙とがっぷり四つに組む団体戦で頑張った方がいい」と産業医からアドバイスをいただき、思い切って2017年『社員の敷地内全面禁煙』を始めました。

並行して、専門家やドクターを呼んでどうしてタバコが身体に良くないのか、講習を開催しました。タバコが原因で血管が収縮する様子を目の当たりにしたり、副流煙について知り、危険性を学んでもらいました。「子供の小児ぜんそくは自分のタバコの煙のせいかもしれない」とその日にタバコをやめた社員もいました。「喫煙は体に害が多い」と腹落ちした社員を、仕事中は絶対に吸えない環境に置く。禁煙に成功する社員がどんどん増えはじめました。

喫煙率の変化

ストレスにはリラックスした心で対抗

禁煙勉強会悪戦苦闘した禁煙も成功し、現在では喫煙率は6%に減りました。ご飯がおいしくなった、肌つやが良くなったという声をよく聞きます。その反面、徐々に太り始めるスタッフも増加。そこで次はメタボ対策。社員全員を巻き込んで運動をはじめました。

ラジオ体操を導入したり、「くまもとスマートライフ」というウォーキングアプリの利用もスタート。会社内でランキング争いが出来るので、4日以上の休みがあるとインセンティブ付きの万歩大会をよく開催しています。新型コロナで私ども業界にも11日間の休業要請が熊本県から入りましたが、お休み中40人が毎日1万歩歩いたようでした。営業再開時に表彰式で景品を受け取っていました。その他にも阿蘇の研修施設でリフレッシュしたり、バレーボール大会やボーリング大会をしたり、KDSはストレスをかわす術や時間を持つよう取り組んでいます。

従業員の誕生日には朝礼の際に全員でハッピーバーズディソングを歌ってケーキをプレゼントする文化もあります。とても喜んでもらえますよ。

「ほめる」ことも大切だと考えているのです。同僚がお互いほめ合って気分を上げてもらいたいと考えているんです。『ほめる達人協会』にセミナーをお願いし、全員3級を取得しました。最近のお客様は、他人に怒られたことがない世代の方が大半。注意はしても最後はいい気持ちで教習を終えたいのですが、この学びが役立っています

保護者や高校の先生に、信頼を寄せられる自動車学校

紆余曲折を経て、KDSの健康経営は確立してきたと考えています。講習でお世話になった『(一社)くまもと禁煙推進フォーラム』に私も所属することになり、講演活動などで我が社の成功体験をお話する機会なども増えました。そんな中「お客様には禁煙をすすめないのですか?」というご意見を頂戴しました。お客様に強制して大丈夫かと迷いもあり、「サービス業なのでお客様が減少し売り上げに響く」と反対する社員もいましたが「卒業間近な高校生のお客様も多いし、青少年の健全な育成と教育にもつながる」とお客様を含めて2019年敷地内全面禁煙を決行しました。パンフレットにも明記し、スタンスを明確にした上で入校生を募りました。外で吸い殻を捨てる方もいるかもしれないと、万が一を考えて携帯灰皿の準備や吸い殻拾いも行っています。

地元の高校で行う春の交通安全指導で『受動喫煙防止プロジェクト』の講義をさせていただくことにつながり、保護者や高校の先生方から『信頼の置ける自動車学校』と認識して頂けるようになったようです。

2019年に改正健康増進法が施行されましたが、NHKや朝日新聞で取り上げられました。「タバコの煙にアレルギーがある我が子をぜひ入れて欲しい」と入校を決めていただいたケースもありました。
『全国指定自動車教習所連合会』の機関誌に弊社のこの取り組みを寄稿し、自動車学校業界の中でも少しずつ全面禁煙が広がってきているという手応えを感じています。

健康経営優良法人になって一番嬉しかったこと

ありがたいことに、こういった我が社の取り組みが様々な所から評価をいただき、2017年に厚生労働省「健康寿命をのばそうアワード2017」健康局長優良賞を頂いたり、2017年から4年連続で経済産業省の「健康経営優良法人」に認定されました。この認定が、すばらしい波及効果をもたらしてくれました。
 
外国人スタッフKDSは外国人の免許取得もサポートしています。受け入れを始めてから2年で100名を超える入校生がありました。日本人だけではきめ細かなサポートが行き届かないところがあると考え、母国語でコミュニケーションを図れる外国人の社員を雇い、インストラクターに育成することにしました。彼らは学生ビザで来日しているので就職が決まったら労働ビザの申請をします。

九州経済産業省の方から申請時に「健康経営優良法人」であることを伝えるようにとアドバイス頂きました。そこに就職している社員ということで、申請書類の煩雑さが東証一部上場企業並みに優遇されること仕組みです。驚くことに加えてビザの滞在期間が1年から3年を飛ばして5年にアップ。人生を賭けゆくゆくは永住も…と日本にやってきた外国人社員達は泣いて喜び、今では祖国から家族を呼び寄せています。この春入社の新入社員は、初回の労働ビザ申請時にいきなり滞在期間5年を頂いた社員もいます。健康経営優良法人の認定により、KDSの社員が入国管理局で優遇制度を受けることができ、「KDSに就職できて私たちは本当にラッキーです、社長さんありがとう」と彼らから感謝の言葉を貰うたびに胸が熱くなります。

採用も、自分たちらしさで勝負できる

外国人に限らず、新卒採用の質も上がりました。以前は求人サイトで募集したり、採用イベントに参加していました。多くのメディアに取り上げていただいた影響か、ホームページからの直接問い合わせも増えました。それに加えて最近では社員からのリファーラル(紹介)だけで採用を行っています。事前にKDSの中身や仕事の内容をよく知り、自信をもって話す社員達が「うちの会社はこんな所で、いいところだから一緒に働こう」と誘ってくれた人ばかりので、離職率がぐんと下がりました。紹介してくれた社員はチューターとして新人の面倒を見てくれています。昨年入社したのは5名。みんな辞めずに頑張って働いてくれています。

一方、定年を過ぎても自分のペースで健康的に働いてくれる70歳以上の社員もいます。みんな生涯現役で働けるよう、健康な状態を維持するようお願いしています。どんどんマンパワーが充実してきていると感じます。

 KDSは、第一に従業員満足を目指すことで本当の意味での顧客満足度がアップし、ベストサービスの提供ができると考えています。経営者がどれだけ社員に寄り添い、興味を持ち、家族同様の愛情をもつことができるかが、健康経営を実現できた鍵だと考えています。

健康経営の輪を広げていきたい

8月に熊本県内で健康経営を考える企業の会「くまもと健康企業会」がキックオフすることになりました。私もお声がけ頂きました。40社くらいが集まる予定です。「健康経営の情報交換の場とし、具体的例を効率的に学ぶ」ことを目的にしています。志が同じ企業が集まり、健康経営の輪を広げ、熊本を全国でも有数の健康県にしたいと考えています。

私が健康経営という言葉を知ったのは2016年。協会けんぽの担当者が教えてくれました。私どもの健康経営は、協会けんぽとのコラボヘルスから生まれました。その協会けんぽは今、インセンティブ制度という健康づくりの取り組みを各県の保険料率に反映させる仕組みを始めました。努力をした県の保険料率は下げられ、努力をしなかった県はペナルティとして保険料率が加算される取り組みが30年から始まっています。お便りやホームページなどにも書いているのですが、認知度が低く知らない人が多いようです。にじいろ様、情報の拡散に協力いただけませんか?

何でも知ることから始まると思っていますので、にじいろ様には、良い施策や情報をどんどん広げて頂けたら助かるなと思っています。私たちが自社の成功体験を他の企業様にお伝えするように、シェアしていくことってとても大切。出来る限りたくさんの企業様に取り組まれるよう広報して頂けたらありがたいですね。
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 タイトル:「健康」はゴールではない、人・組織・社会のしあわせのための健康経営
  URL :https://www.niziiro.jp/interview/detail/569/

 


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