• 経営者
  • 2020.09.14 (最終更新日:2022.03.26)

藤野氏が語る、健康経営を行う企業に共通する本質とは

  • レオス・キャピタルワークス株式会社 代表取締役 会長兼社長 (兼)次世代ヘルスケア産業協議会 健康投資WG 委員
  • 藤野 英人
  • 経営者
  • 2020.09.14 (最終更新日:2022.03.26)

藤野氏が語る、健康経営を行う企業に共通する本質とは

  • レオス・キャピタルワークス株式会社 代表取締役 会長兼社長 (兼)次世代ヘルスケア産業協議会 健康投資WG 委員
  • 藤野 英人
目次

第一印象は「フランケンシュタインみたい」だった健康経営

健康経営 第一印象 2015年、経済産業省が健康経営銘柄の選定を始めました。医師や専門家がそのワーキンググループに名を連ねる中、私もスターターとして選出されました。健康に携わる生業の方だけではなく、経営者、投資家といった異なる観点からのメンバーも必要との判断があったのでしょう。

 今は言葉が熟してきた健康経営ですが、当時は馴染みのないワードで、健康経営銘柄の誕生がきっかけで広がっていきました。スタート当初の私は「健康」と「経営」の組み合わせに違和感を感じて、異質なものを無理に結び付けたフランケンシュタインのように感じていました。「健康経営を行う上で責任を持つのは誰か」というアンケートで「経営トップ」という回答は2014年、5%くらい。それが昨年の調査では60%くらいの回答に変化しました。

 投資家として、当初は「健康経営」を取り入れることで株価や業績が上がるのか、それを保証できるのかという点を懸念しました。当時のメンバーたちとよく議論したのは「健康」は目的なのか、手段なのかということ。従業員が健康になることで頑張ってもらい、結果を出すのか。あるいは働くことで健康になり、幸せになれるのか。よくそういった話をしていました。

「健康経営」はブラック企業の対極

健康経営 取入れ  彼らと議論を深めていく中、「健康」は手段でも目的でもどちらでもいいではないかと思えるケースが続々と確認されました。従業員にイキイキと働いてもらい、利益をあげたいという理由で健康経営を取り入れた結果、従業員は体調が改善した・ゆとりのある生活を送れるようになり、会社の業績も上がり、社会的効用も高まった企業が増えてきたのです。そういった結果から『健康とは人が健やかでしあわせな生活を送るための健全な心理であり、人の基盤』という定義が浮かんできました。

 健康経営が徐々に注目される少し前、ブラック企業の横行が社会問題化していまいた。アベノミクスによる働き方改革が推進され、労働時間の緩和などが声高に叫ばれる。その空気が浸透し始めた頃に健康経営銘柄の選定がはじまり、一気に知られるようになったのではないでしょうか。

 健康を気にする年頃になった経営者が増えたということも考えられます。同世代の経営者が集まった際、病院や名医、体に良い食材の話をすることがぐんと多くなり、高血圧など健康上の問題を抱える人も増えました。嫌でも自分の体と向き合わなければいけなくなった時に健康経営を知る。自分ごととして捉え、会社にも導入を決めた経営者も多いようです。

言葉として熟し、求人市場でも存在感を発揮する健康経営

SDGs  時代の流れと健康経営が合致しているというのは現在も同様で、SDGsやESGが出てきたことで、さらに盛り上がったのではないかと考えています。企業が利益だけ追求する時代ではなくなりました。今は従業員、お客様、取引先などの仲間がいかに健康で健やかな生活を送っているかという点が重要視され、企業側はどのようにコミットしているのか。その姿勢が評価される時代です。
2015年からの5年間、健康経営銘柄や健康経営優良法人認定制度の認定など、経済産業省をはじめ、健康経営を行う企業は努力を続けました。その結果、社会的背景を解決する手段として認められ、多くの人の生活を幸せに変えてきました。そんな歴史の積み重ねによって健康経営は知名度を上げ、言葉が熟してきたのです。

 健康経営優良法人の中から、2020年から大規模法人部門の上位500法人が『ホワイト500』に選定されます。選ばれた企業はホームページや名刺などに認定のロゴを入れることが可能です。取引先やお客様からの信頼の証として認識され、経営の安定をサポートしてくれます。

 ホワイト500に選ばれる企業が突然ブラック企業に転落することは考えにくいです。その厚い信頼はリクルーティングにも及んでいて、健康経営を取り入れた企業は応募者がグッと増えたと聞いています。従業員を中心に据え、大事にしているから成り立つのが健康経営ですが、就職活動を行う本人はもちろん、親御さんからも強く求められているのです。

健康で、安心して働きたい。そんな親子の希望を叶える会社

社員  健康経営が認知されるずっと以前「大学の入学式に親が来るなんて」と言われる時代がありました。現在は、入社式にも親御さんが同行し、「ブラック企業だ」と判断されると親御さんから退職を告げられる時代。とある有名チェーン店の本部に「そんな仕事をさせるために大学に行かせたわけじゃない、辞めさせる」と連絡があったと事例すら聞いたこともあります。

 親御さんが希望するのは、出世やお金を稼ぐことはではなく、自分の子供が健康で健やかな生活を送ること。過度なストレスがかからない場所で幸せに働いて欲しいと願うのです。その環境が出来上がっている健康経営優良法人だったら安心して預けられそうと考えるのでしょう。あとで詳細はお話しますが、健康経営を取り入れる会社は、目的や存在する意味を明確に示し、一人ひとりを大事にします。そのため、就職する本人にとっても居心地がいい職場になるのです。健康経営企業の人気は、今後もさらに高まると思われます。

 それに気づいた経営者たちは「求職や採用もうまくいき、社員にも喜ばれるなら私たちも健康経営銘柄を取ろう」と行動を起こします。年々、健康経営銘柄の応募数は増え、どんどんクオリティがあがり、価値が高まっていく。この循環を創り、回せたことが、この5年で私が貢献できた事と考えています。

健康経営を導入する企業の本質は「オープンで自由な文化度」

企業の本質  『アイスが売れると、水難事故が増える』という話を聞いたことがありますか?アイスと水難事故にはもちろん因果はありませんが、相関はあります。その2つに共通しているものは暑さ。そう、気温こそがこの相関関係の本質なのです。

 従業員の健康を活動の中心に据え、実現のため健康経営に真剣に取り組み続ける。その事実だけでも評価に値するものですが、投資家としてもう一歩踏みこんだ領域を知りたいと考えています。私は常にその企業が大事にする本質の片鱗を一生懸命探し、見極めたいのです。本質さえわかれば、将来の業績をある程度判断することが可能だからです。しかし、会社とは社長、役員、従業員、微妙に異なる場所を見ている構成員の総合体。社内の人間でも全体像を把握するのは困難です。外部の人間だとなおさらなのですが、相対的に判断できる重要なポイントがいくつかあります。

 健康経営はここ数年で誕生した概念です。いち早く取り入れはじめたのは、年齢や性別関係なく誰もが自分の意見を安心して言える機会を作り、どんどん取り入れる『オープンで自由な文化度』を持つ会社でした。私は健康経営のように新しい概念を取り入れることができる会社の本質はずばり『オープンで自由な文化度』と考えています。

投資家としてこの上ない判断材料は、健康経営をしていること

投資家としての判断  投資家としての経験上、オープンで自由な文化度を本質的に持つ会社の業績はぐんぐんあがります。しかし、本質とは実際に見ることも測ることもできないので、新しい投資先を調べる際には、いくつかの判断材料や経験則を比較しながら見極めていきます。

 私が見た限りでは、健康に留意し、強く意識している会社は、女性、障害者、LGBTQなど社会的弱者と言われる方々に対しても態度を変えず、従業員一人ひとりを尊重する傾向が高いです。様々な意見を取り入れ、それぞれのバックグラウンドも受け入れた上で、オープンなコミュニケーションが行われているためでしょう。健康経営を極めていく中で、自ら「障害者の雇用はどうすればできますか?」と問いはじめる経営者が多いのも興味深い話です。これは、健康経営を行う企業は、どんな分野においても高い文化度を示す可能性が高いという仮説につながります。

 そういった理由から、健康経営は信頼性が高い判断材料と考えており、健康経営とオープンで自由な文化は、お互いの代理変数になり得ると私は考え、重宝しています。

 投資家や就活中の方、そのご家族などは注目している企業が『健康経営』をしているかどうか、ぜひ一度調べてみてください。

オープンで自由な組織が、日本の経済を盛り上げていく

働きやすさ  会社とは社長、役員、従業員の総合体で、お客様を作り出す無限の価値改善運動を行う組織です。一昔前でしたら体育会系でピラミッド型、体調を崩しても上からの指示は絶対、一従業員は一兵卒に過ぎないという環境が大半でした。しかし現在はそういった職場は好まれなくなりました。

 総合体であることは不変ですが、昨今はルールの範囲内でチーム一丸となって戦うスポーツ型の会社が増えました。命令ではなく、各従業員が自主的に考え、お互いコミュニケーションを取り合うことが求められます。この総合体を健全に動かすためには、透明な組織の中でお互いが学び合い、話を聞き合う文化、つまりオープンなコミュニケーションが行われる文化が必然とされるのです。総合体全体が信頼関係で結ばれているのが、新しい会社の在り方といえるかもしれません。

 日本の経済はここ20数年で元気がなくなりましたが、その原因は少子高齢化だけではないと私は考えています。オープンな文化が足りず、社員を大切にしてこなかったことが大きな原因なのではないかと分析しています。

 ところで、Webサイト等で「社員を大切にしています」と謳う会社をよく見ますよね。その真贋はすぐに分かりますので、その見分け方をお知らせしますね。

Webサイトに登場する社員の数は、自信の表れ

ゴールドマンサックス  みなさんは「社員は財産です」と書いているのに、目に入ってくるのは建物や機械の写真ばかり…とWebサイトを見て違和感を感じた経験はありませんか?その感覚は大正解なんです。私が着目しているのは、登場している社員の『数』。Webサイトにたくさん社員が載っている会社は、社員こそ自分たちの会社そのものと捉え、自信を持っています。

 日本の企業でいうと、4年連続でホワイト500に選出され、業績も好調なオムロン ヘルスケア株式会社のWebサイトが素晴らしいと思います。社員数まで正確に記載され、非常に透明度の高い企業という印象を受けます。

 海外でも面白い事例があります。ゴールドマン・サックスという世界規模の証券会社がありますが、ここのWebサイトは世界各国の従業員が登場しています。意外に思われるかもしれませんが、従業員をとても大切に扱い、自分たちがその生活を支えるという意識が伝わってきます。2008年、リーマンショックの際にゴールドマン・サックスは破綻の危機に陥りますが、何とか持ちこたえます。一方、Webサイトに従業員がほぼ登場しなかったライバル企業は倒産。生還できたのは『人』の力だったのではないかと感じています。

会社の決意や姿勢が表れるインサイドインフォメーション

インサイダーインフォメーション  社長と役員の写真もチェックすべきポイントです。上場企業の8割は社長の写真を載せていますが、役員に関しては17%程度。この17%の会社に投資をすると、残りの83%よりはるかに優れた結果を出してくれます。これは、社会に対するスタンスの違いなのではないでしょうか。役員の写真から、自分自身を堂々と晒す覚悟の差、そして伝えられることをなるべく伝えようとする誠実さが読み取れるのです。社長メッセージで『弊社』と言わず『私』『私たち』と表現する、署名が必要な箇所には直筆のサインをスキャンして添えているのも誠実であろうとする本質が見られ、評価されると思います。世の中の決まりがない部分に本音が滲み出るものですし、『細部には神が宿る』のです。

 私はこれらをインサイドインフォメーションと呼んでいます。こういった本質を持つ会社は高い確率で業績があがるのです。共通しているのは、人を会社の中心に据え、大事にしていること。私はこれも健康経営の1つの形だと確信しています。
 これから就職しようとするみなさんは、こういったインサイドインフォメーションを見逃さず、本質を見極めてください。就職後、充実した時間を過ごすために真剣に、そして哲学的に考え、実行している会社を選んで欲しいと思います。

健康経営を行う会社を、求職者に知ってもらうために

藤野氏 にじいろ  経営とは、深く考えることと私は考えています。健康とは何?仕事とは何?従業員やお客様とは何?…と、経営者は何ごとも深く考えなければならないのです。海外のIT企業には必ず哲学家や哲学専攻卒の従業員がいて、ありとあらゆるものの意味を問い、会社に疑問を投げ続けるのです。

 日本では「投資について考えよう」と従業員に言うと「仕事をしてください」とたしなめられます(笑)。実をいうと、私は突き詰めることをないがしろにしたことも日本企業の競争力が低下したのではないかと考えています。新しいことを始めたり、やめたり、違った切り口から進めるような大胆な決断は、考える力がないと実現できません。

 健康経営を取り入れる会社のほとんどは、一人ひとりの健康はもちろん、生活や人格までもを大事にし、オープンで自由な本質を持っています。自分の大切な人たちから「就職したい」と聞いたなら、私は絶対に健康経営の企業を薦めます。

 だから、健康経営企業を広めたいというにじいろさんの理念は正義だと考えています。だけど正義が勝てるとは決まっていませんし、不正義の方が勝利への執着心が強い傾向があります。求職者のためにも、健康経営を行う企業をたくさんの方に知ってもらうためにも、勝利してほしいと考えています。

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