• 健康経営
  • 2021.07.06

「健康経営」、その成否のカギを握る原動力。「健康づくり担当者」

目次

広がる「健康経営」

医師従来、従業員や協会けんぽ等が主体的に取組む問題と考えられてきた健康問題を、企業が積極的に関与し、その費用を将来に向けた投資と捉え、従業員等の健康管理を経営的視点で考えて、戦略的に実践していく「健康経営」。活力や生産性の向上が組織の活性化をもたらし、ひいては収益力や企業価値の向上につながるとの認識が経営者や投資家の間に浸透し、働き方改革や人材採用の観点から取組みを始める企業が増えています。また、「健康経営」という言葉も広く一般に認知されるようになり、まだ取組みを始めていない企業にとっては、この時代に乗り遅れないためにも、早急な取り組みに向けた真剣な検討が必要であるとさえ言えます。

「健康経営」は新たな段階へ

現代は、新型コロナウィルスの感染拡大やテクノロジーの急速な進歩などに代表されるように、取り巻く社会環境の複雑性が増し、次々と想定外の出来事が起こり、将来の予測が困難な状況であるVUCAの時代といわれています。このようなVUCAの時代を乗り越えるため、SDGs(持続可能な開発目標:Sustainable Development Goals)を念頭に置いて、環境(Environment)、社会(Social)、管理体制(Governance)を考慮した経営(ESG経営)によって解決をめざすことが、サステナブルな社会に向けた取組みと考え、実践している企業が増加しています。「健康経営」はSDGsの17ある目標のうち、目標3「すべての人に健康と福祉を」に含まれます。健康経営の効果は短期間で得られるものではなく、持続的に取組んでいくことが必要となります。このような取組みを進める企業が増加する背景として、「働きがい」を高め、エンゲージメントが向上し、業績が向上することによって、目標8「働きがいも経済成長も」につながっていくことが期待できることにもあります。健康経営は新たなフェーズを迎えているのです。

健康経営を支える「健康づくり担当者」

このような急速な環境変化の中で、既に行っている健康経営への取組みにおいても、あるいははじめての健康経営への取組みにおいても、それを支えるのは間違えなく「健康づくり担当者」といえます。健康経営の5つのフレームワークのうち、「組織体制」の一つと位置付けられていますが、様々な資料を見ても、そのほとんどが「健康づくり担当者を決める」としか記載されていません。しかし、健康づくり担当者の役割は広範にわたり、その機能は大変重要なものです。健康経営の成功のカギは、縁の下の力持ちである「健康づくり責任者」が握っているといっても過言ではありません。まさに「健康経営の原動力」と言えるでしょう。

健康づくり担当者の役割

健康づくり担当者健康経営の原動力となる「健康づくり担当者」。PDCAに基づいたその役割について考えてみましょう。

健康経営に向けた基盤の整備

健康経営を効果的に進めるには経営者との十分なコミュニケーションが重要です。まずは、従業員の健康状況を把握した上で課題を抽出し、経営者と方向性を共有することがから始めます。その方向性を判断するためにも、健康診断結果やアンケケート調査結果などを用いて、データドリブンで自分なりに仮説を立てながらどのような課題があり、どのように解決していくか話し合い、双方が同じ認識をもって取組むことで実効性が増していきます。投資効果や予算上の問題からなかなか理解を得にくい場面もありますが、「健康課題は経営上のリスク」という論点で経営者と話し合うことが理解を得るためのポイントだと思います。多くの場合、総務部門などの担当者が健康づくり担当者を務めることになると思いますが、課題の見極めや施策の検討については、専門的な知識や知見、データ分析手法などが必要となり、担当者だけでは限界もあります。産業医や保健師、衛生管理者との連携のほか、職場に健康づくり推進者を置くなどそれぞれの会社に合った体制を構築することも健康経営に向けた基盤整備のひとつといえます。

社内への情報発信

健康経営をスタートするとき、経営者が社内外に向け「健康宣言」を行います。健康づくり推進者は、「健康宣言」に込められた経営者の想いを咀嚼して、様々な場面を通じて社内に情報発信することが重要となります。健康経営の主体は従業員一人ひとりであり、それぞれの従業員が自律的に取組まなければ成果はあがりません。そのためには、経営者の想いに加えて様々な健康情報を理解しやすい言葉で伝えるだけでなく、関心を引くようなタイトルをつけたり、ビジュアルを加えたりして工夫をこらし、従業員のヘルスリテラシーを高めていくことが有効です。

健康づくり施策の推進

健康診断やストレスチェック、アンケート調査などの客観的データから課題を把握した後は具体的施策実施のフェーズとなります。従業員の勤務形態や業務内容、職場環境などにより、どのような方法が取組みやすいかを検討します。従業員の意見も聴いて、職場で「取り組みやすいこと」「従業員の興味があること」「楽しめること」などを優先して職場全体で取組みを進めることが大切です。最初から大きな成果を目指すよりも、敷居の高くない取組みの方が従業員の不安や負担が少なく受け入れやすくなります。負担の少ない「小さな変化」を継続し、徐々に取組みを増やしていくスモールチェンジ活動もその一つです。また、職場にヘルスリテラシーが高い従業員がいる場合、その従業員を巻き込むことも施策の推進には効果的です。

健康づくり施策の評価と改善

PDCA 健康づくり 健康経営はあくまで経営であり、PDCAサイクルを有機的に機能させ、推進していくことで、投資に対見合う期待される成果をあげることは不可欠です。そのためには、KPI(Key Performance Indicator:評価指標)および目標値の決定、目標に対して現状を評価し、そのギャップを分析して改善活動につなげていく評価・改善を継続的に実施していくことが重要となります。KPI設定のポイントは、①経営課題解決につながる指標である②改善可能である③数字で評価できる④評価が難しくない、の4つです。KPIが決まったら、その指標をどこどのレベルにもっていきたいのか目標を設定することになります。目標を設定する場合、経営者とその目標を共有し、最終目標達成に向けたステップごとの目標値を、改善の期待度に沿って適切に設定することが重要となります。健康づくり担当者は、KPIおよび目標値の設定や評価・分析にあたって、データドリブンで、経営者、産業医や保健師などの医療専門職、主体である従業員、保険者などと幅広くコミュニケーションを取る力量が求められます。

健康づくり担当者が目指すもの

担当者 悩み重要な役割を担う健康づくり担当者ですが、その目指す姿については担当者それぞれ想いがあると思います。その参考となるようなアドバイスをいくつか挙げてみることにします。

健康づくり担当者の悩み

健康づくり担当者にはいろいろな悩みがあると思います。例えば、「関心のない経営層や従業員がどうしたらやる気になるのか」「環境の変化が速すぎてどう対応してよいかわからない」「知識が不十分な中で自分がしていることに自信が持てない」などがあげられます。これらの悩み対しては「腕を磨く」ことで乗り越えていきましょう。「自己の変革」「広い視野をもつ」「弛まぬスキルアップ」がキーワードです。

自己の変革

健康経営にあまり関心のない経営者や従業員を動かすには、説明仕方や情報発信の方法、施策の工夫などのテクニックによるところは大きいと思います。しかしながら、「関心がない」ことを理由に経営者や従業員の問題だとネガティブに考えるのではなく、「どうしたら関心を持ってもらえるか」という焦点を自らにあてたポジティブな考え方をすることも必要だと思います。ここに興味深い理論があります。スタンフォード大学で教鞭をとった心理学者のJ・D・クランボルツ氏が提唱した「キャリアの8割は偶発的な要素によって決まる」という「計画的偶発性理論」です。チャンスをものにする人たちには共通する5つの行動特性があるというものです。言い換えれば、この5つの行動特性を身につけることで成功(仕事がうまくいく)できるのではないかとも考えられます。5つの行動特性とは①絶えず新しい学習の機会を模索し続ける【好奇心】②失敗に屈せず、努力し続ける【持続性】③新しい機会は「必ず実現する、可能になる」とポジティブに考える【柔軟性】④こだわりを捨て、信念、概念、態度、行動を変える【柔軟性】⑤結果が不確実でもリスクを取って行動を起こす【冒険心】、です。さあ、いかがでしょうか。VUCAの時代、多様性の広まりの中で自らの行動変容が問題解決に結びつくのではないかと思いませんか?

広い視野をもつ

健康経営が広まるバックグラウンドにも目を向ける必要があります。少子高齢化が進み、労働人口が減少する中、これまで労働の機会を逸していた子育て世代や高齢者などに就労を促すとともに、人口が減少する社会においても経済成長を実現していくために、労働生産性の向上を進めていくことを目的の一つとした「働き方改革」が推進されています。また、過重労働、メンタルヘルス、ハラスメントといった最近の労働問題や企業に求められる安全配慮義務、アフタコロナのニューノーマルな働き方など健康経営と密接に関連する問題にも目を向け、広い視野と高い視座をもって、様々な問題を俯瞰することが極めて重要です。

弛まぬスキルアップ

スキルアップ 自らの知識と能力を継続的に向上させていくスキルアップが重要なことは言うまでもありません。書籍等をとおして、いろいろと情報収集をして知識を高めることは大切ですが、関係する資格を取得することがその近道です。資格取得はその力量を客観的に証明するものでもあり、個人に紐づくものなのでモチベーションも向上するはずです。まずは、健康経営を体系的に理解でき、それほど難易度も高くなく手軽に受験できる東京商工会議所が認定する「健康経営アドバイザー」がお薦めです。少しハードルは上がりますが、国家資格である「衛生管理者」やメンタルヘルスケアに関する知識や対処方法を習得するための大阪商工会議所が認定する「メンタルヘルスマネジメント検定」、カウンセリングの知識や技法を習得するための「産業カウンセラー」などを目指すとよいでしょう。また、健康経営に関する様々なセミナーにも積極的に参加して最新の情報に触れておくことも有効です。最近ではオンライン形式のセミナーが主流ですので、手軽に参加できるはずです。

まとめ

ここまでご説明してきたとおり、健康経営の成功のカギは「健康づくり担当者」の掌中にあります。「健康づくり担当者」は健康経営の原動力であり、その使命の重要さを再認識し、期待される役割を果たすために自らの腕を磨き続ける弛まぬ努力を続けてほしいと思います。

関連コラム

問い合わせ
各種取材やサービスに関することなど、
お気軽に問い合わせください。