• 健康経営アドバイザー
  • 2021.12.29 (最終更新日:2022.04.06)

過労死防止基本法とは?企業がすべき対策を解説

目次

労働力と信用を同時に失う過労死

働く人々 「過労死は頻繁に発生するものではない」と考えていませんか?
20年ぶりに過労死ラインの見直しが行われ、今まで認定されなかった事案も認定と予想されます。
過労死に至らないでも、過重労働により苦しんでいる方は多くいます。
過労死が発生したのであれば会社は労働力と信用を同時に失うことになり、会社としても大きな損失になるでしょう。
健康で充実して働き続けることのできる社会のために企業ができる対策を考えてみませんか。
そこで今回は「過労死防止基本法」について解説します。

過労死防止基本法とは?

厚生労働省 正式名称は「過労死等防止対策推進法」です。
「過労死等防止対策推進法」とは、過労死や過労自殺の防止を目的とし、その対策に関する基本理念や責務、施策推進を求める法律となります。
国内における労働者の過労死問題解決に国が積極的に取り組むことを示した法律です。
過労死とは、労働災害であり、働き過ぎによる過労のため死亡することです。

過労死の定義

「過労死等」は、過労死等防止対策推進法第2条により、以下のとおり定義づけられています。
  • 業務における過重な負荷による脳血管疾患・心臓疾患を原因とする死亡
  • 業務における強い心理的負荷による精神障害を原因とする自殺による死亡
  • 死亡には至らないが、これらの脳血管疾患・心臓疾患、精神障害
(引用元:厚生労働省過労対策ページ

目的

「健康で充実して働き続けることのできる社会の実現」を目的として制定されました。
過労死防止基本法が制定されるまで、過労死等について法的な定義はありませんでした。
過労死は社会的にも大きな損失であり、過労死を放置することは日本の衰退にもつながると考えられています。

過労死の新たな認定基準

過労 2021年9月に20年ぶりに過労死ラインが見直されました。
働き方の多様化や職場環境・最新の医学的知見を踏まえて労災認定基準に関する専門検討会によって認定基準の改正が行われました。
これまでは長時間労働に対する過重業務を重視していましたが、「労働時間以外の負荷要因」も労災認定基準に重視されます。
変更の大きなポイントは3つです。
  • 長期間の過重業務の評価にあたり、労働時間と労働時間以外の負荷要因を総合評価して労災認定することを明確化
  • 長期間の過重業務・短期間の過重業務など負荷要因を見直し
  • 短期間の過重業務・異常な出来事の業務と発症との関連性が強いと判断できる場合を明確化

対象疾病に「重篤な心不全」を新たに追加

1.長期間の過重業務評価に当たり、労働時間と労働時間以外の負荷要因を総合評価して労災認定することを明確化(業務との関連性を評価)

  • 発症前1ヵ月間に100時間または 2~6ヵ月間平均で月80時間を超える時間外労働は、発症との関連性は強いと判断
  • 月45時間を超えて長くなるほど関連性は強まり、発症前1~6か月間平均で月45時間以内の時間外労働は発症との関連性は弱い

2.労働時間以外の負荷要因を見直し(新たに4つ追加)

  • 休日のない連続勤務(新たに追加)
  • 事業場外における移動を伴う業務(新たに追加)
  • 勤務間インターバルが短い勤務(新たに追加)
  • 身体的負荷を伴う業務(新たに追加)
  • 不規則性のある勤務
  • 拘束時間の長い勤務
  • 不規則な勤務・交替制勤務・深夜勤務
  • 出張の多い業務
  • 他の事業場外における移動を伴う業務
  • 心理的負荷を伴う業務
  • 温度環境のある作業環境
  • 騒音のある作業環境
  • 時差のある作業環境

3.関連性が強いと判断できる場合を明確化

業務と発症との関連性が強いされる短期間の過重業務や異常な出来事と判断できるケースとして例示されました。
「発症前おおむね1週間に継続して深夜時間帯に及ぶ時間外労働を行うなど過度の長時間労働が認められる場合」など詳しく例示されています。
さらにこれまで以上に重視される「労働時間以外の業務負荷要因」についてより詳しい情報は、厚生労働省のサイトより確認されておくと良いでしょう。
出典:脳・心臓疾患の労災認定基準の改正について

4.対象疾病に「重篤な心不全」を追加

①脳血管疾患
  • 脳内出血(脳出血)
  • くも膜下出血
  • 脳梗塞
  • 高血圧性脳症
②虚血性心疾患等
  • 心筋梗塞
  • 狭心症
  • 心停止(心臓性突然死を含む。)
  • 重篤な心不全(新たに追加)
  • 大動脈解離
過労死等防止対策推進法では、事業主に国や地方公共団体が実施する過労死等の防止対策に協力するよう努めることを義務づけられています。
経営者や人事担当者はあらかじめ留意する必要があるでしょう。

企業で行うべき過労死防止といえば「長時間労働の見直し」と思われるでしょうが、原因はそれだけではありません。
過労死の原因として、労働時間の長さや働き方や職場環境・仕事内容・人間関係などが過労死の原因であると考えられ、働きすぎにより脳や心臓に負担がかかり、精神疾患の発症につながります。
これらを対策・解決することが重要です。

過労死防止の6つのポイント

ワークライフバランス 1.長時間労働の削減
2.過重労働による健康障害の防止
3.働き方の見直し
4.職場におけるメンタルヘルス対策の推進
5.職場のハラスメントの予防・解決
6.相談体制の整備等

1.長時間労働の削減

労働者の労働時間を事業主が正確に把握する必要があります。
時間外・休日労働協定(36協定)の内容を労働者に周知し、週労働時間が60時間以上の労働者をなくすよう努めることが大切です。

個人の業務負担が過剰にならないよう必要に応じて人員を増やす、環境を改善するなど、長時間労働をなくすためには強いトップダウンが必要となるでしょう。
業種によっては「人員不足」や「適切な工期設定がなされていない」など課題も多いという事実もあり、労使だけでは解決できない問題も多々あります。
各業態や社会全体で過重労働をなくすための取り組みが必要となっているのではないでしょうか。

2.過重労働による健康障害の防止

働きすぎによる健康障害を防止するために、企業は積極的に従業員の健康づくりを支援する必要があります。
計画的な年次有給休暇の取得などワーク・ライフ・バランスのとれた働き方ができる
職場環境づくりが重要です。

3.働き方の見直し

「サービス残業はないか」「休日はあるか」といった点は、過労死等防止啓発月間中の監督対象となった企業では必ず確認されます。
勤務間インターバル制度を取り入れ、働く人の生活時間や睡眠時間を確保し、健康な生活を送るための環境整備となるでしょう。
勤務間インターバル制度とは、終業時刻から翌日の始業時刻までに一定時間以上休息時間を設ける制度です。

4.職場におけるメンタルヘルス対策の推進

過重労働は長時間労働だけではなく仕事のストレス対策も必要となります。
従業員の健康状態に配慮することはもちろん、本人が異常を感じた際にそれを訴えやすい職場環境をあらかじめ構築しておかなくてはいけません。
個人の意思や意見が抑圧された環境では、体調不良や精神障害を見逃し過労死につながるおそれがあるためです。
まずできる対策として、ストレスチェックによる従業員自身のストレス対策に努めることが大切でしょう。

5.職場のハラスメント予防・解決

職場におけるパワーハラスメント防止対策が大企業の義務となりました。
(中小企業は令和4年3月31日まで努力義務)
予防から再発防止に至るまで、一連の防止対策に取り組み職場のハラスメントを防止し強化することも過重労働防止につながります。
メンタルヘルスの背景には心理的・社会的な要因にとどまらず、生物学的な要因が隠れている場合もありメンタル対策には専門家の力が必要です。
厚生労働省では、ハラスメント防止対策導入マニュアルや社内研修資料を活用できるように専用サイトを作成しています。
従業員のメンタルヘルスに寄り添うためにも、厚生労働省のサイトや専門機関の存在を覚えておいてください。
厚生労働省過労死ゼロサイト

6.相談体制の整備等

経営者や管理者も従業員の不調に気づき、産業保健スタッフ等に引き継ぎできる体制の構築が重要です。
しかし常時50人未満規模の企業ですと産業医の選定規定がなく、専門的な人材の不在によりメンタルケア対策が後手に回ってしまうでしょう。
しかし実はこうした中小企業には、全国47都道府県に設置されている産業保健総合支援センターという味方がいます。
このサービスの存在を知らない経営者も多く活用率はわずか10%余りです。
専門家や保健師によるメンタルヘルスを含む従業員の健康管理の相談にも対応しています。
相談だけでなく社員に対するメンタルヘルスのセミナーを依頼することも可能ですので、ぜひ積極的に活用していただきたいと思います。

健康経営との関連性

過労 健康経営では、従業員の健康管理をコストではなく企業が成長するための投資と考えています。
上記の「過労死防止6つのポイント」は健康経営の施策そのものです。
健康経営を推進することは、過労死防止対策へとつながるでしょう。
従業員ひとりひとりの健康管理を推進することは、従業員本人そして、その家族にも大きく影響を与えることでしょう。

仕事熱心で真面目な人ほど責任を感じ、一人で抱え込んでしまいがちとなります。
常に会社のことを考え、忙しい日々を過ごしている経営者の方も同じです。
現代の厳しい時代、忙しく仕事があることは素晴らしいことです。
しかし、ご自身と従業員の心身の健康に目を向けることを忘れないでください。

最後にこの一文を紹介します。

お互い忙しいと相手の異状に気づかず、最悪の結末として人の命を死に追いやることにもなりかねないのだと。
「忙殺」という言葉がなぜか気になります。

(引用文書:あなたの大切なひとを守るために残された妻の過労防止法実現への記録より)

まとめ

過労 今回は「過労死防止基本法」について解説しました。
「過労死防止基本法」は、過労死を防止して起きないようにするための対策法案です。
そのため過労死が起きないよう労働環境を改めて確認し、必要があれば見直しを行う必要があるでしょう。
「健康で充実して働き続けることのできる社会実現」のため、また不幸な過労死を発生させないため、最優先課題として対策を立ててください。
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